「人生はあはれなり… 紫式部日記」
他の本でも読んだことがあるけど、紫式部てネガティブさん。
本書では、平安系絶望女子という大変失礼な称号を頂いています。
紫式部日記をベースに、宮仕えの日々を漫画で紹介されていて、非常に分かりやすい。
藤原一門として彰子に仕えた紫式部、その宮仕え前に源氏物語をすでに書き始めていたとは知りませんでした。
そして宮仕えにより感じる紫式部の失望、周りへの厳しい目線、憂いに戸惑いに無常観。
教養隠すために「漢字の一の字もわかりませーん」とか大変だったんだろうな。
紫式部がネガティブ発言しちゃうのも、時代や境遇に大いな原因があるわけで。
単に紫式部がネガティブなわけじゃない…うーん、いやいや本人の性格もあるかな。
読みやすくて、平安系絶望女子に共感してしまう。
平成も終わりが見えてきた時代に生きる私たちは紫式部に会ってなんて言えるだろう。
まだまだ職場で男性以上に知識があると疎まれたり。
でも、平安時代と違って女性も漢字使えてます。
文学の地位は上がりました。
そして貴女の源氏物語が好きで海外から訪れる人もいます…などなど。
平安から進んだことも進みきれてないこともありますね。
そして式部を語る上で欠かせない清少納言。
同じような環境ながらも、天真爛漫に育った清少納言。
同じような才に恵まれながらも抑圧されて育った紫式部。
「兄弟より漢学の才能あってもな。お前が男なら良かったのに」て父に言われたら、やる瀬ないですよ。
また、それぞれが仕えた主が敵対する状況。
性格が真逆なので、実際には宮仕えの時期がずれており面識がないながらも当然反発し合うものと語られる二人ですが、もし仕える主が対立せず同僚であったなら、きっと清少納言は漢学の才などを隠す紫式部の本質を見抜き、「ありのままでいい。言いたい人には言わせおけ。いずれ黙る」とアドバイスして、良いロールモデルになったと思うんですよね。
ロールモデルいないって、自分で悩みながら切り開くしかなくて、よっぽどの自信家じゃないとつらいですからね。
そんな彼女にも、本来分かれている部屋を一緒にするほど仲の良い友人小少将がいたりして。
あー、やっぱり女の友達って大事ですね。
早くに亡くなっちゃいますけど。
源氏物語を単にプレイボーイの物語でなく、紫式部が宮廷で見つめたたくさんの人々の一生、それが物語として結実したのが源氏物語なんだろうなあとしみじみ。
巻末には原文が書いてあり、「紫式部が書いた本当の文に触れてほしい」って感じで好きです。
私が高校生の頃にこんな素敵に古典を紹介してくれる本があったらなら、もっと古文の点数良かったろうな!
今の高校生が羨ましい!
「メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション」
「芸術がわからなくても美術館がすごく楽しくなる本」
サブタイトルの「知識がなくてもできる教養の磨き方」というタイトルはちょっと余分かもなぁ、と思ってましたが、ラストを鑑みると納得。
美術鑑賞に限らず、良書です。
まずは、美術館へふだん行かないひとに、美術館てこういう楽しみかたもある。
カフェでも庭でもいい。
美術品だって、自分とのファーストインパクトが大事なんだ。
解説?イヤホンガイド?そんなのに振り回されなくてもいい。参考程度でいいんだ。
っていうのは、まずは美術館に親しむために、大切だと思います。
もちろん個人的には、そこから発展して、作家自身や、美術史、時代背景など、それこそ教養を身につけていったほうが深く深く楽しめるようになるとは思いけど、この本の趣旨からすると蛇足かな。
混んでいる美術館は疲れるからなぁ…個人美術館は生存してたら本人に会えることもあるよ!みたいなアドバイスも面白いですけど(ご本尊にお会いした経験がないので、ぜひ体験したい)。
個人的には、エア買い付けとタイトルを自分で考えるっていうのは目から鱗って感じでいいな!と思いました。
日本美術も西洋美術もインカ文明もオリエント美術もわりとざっくばらんに楽しめるなのに、現代美術苦手なんですよねー。
岡山県在住で瀬戸内国際美術祭なんて、毎週行ける最高の立地なのに、現代美術に興味持てないせいで、せっかくの地の利を活かせていない。
この残念な状態を上記2点の攻略法で、解決できるかも、とわくわくしてます。
分からないし、共感できなかったら、もう自分で再定義すればいいのか!(いいのかなー、いやいや、いいのだ)
て、美術館の楽しみハウツーだけで、本書は良書なのではないのです。
ラスト3節が美術に限らず全てのことに大切だといえることだと思い、良書だと思いました。
第5章
07 好きなものをムチの眼で、嫌いなものをアメの眼で
08 一つの見方に固執せず、他の見方に「ゆれる」ことも大切
09 いろんな人と意見を交換し、自分に新しい眼を啓く
私はそういう感覚が大事だと考えています。AならA、BならBと一つに決めてしまえば、そのほうがはっきりして、気持ちもすっきりするかもしれません。また一つの考え方をしっかり持っているほうが「ブレない」として評価されたり、リスペクトを得たりすることもあります。
けれども、少なくとも美術鑑賞においては「ブレない」のは必ずしもよいことではありません。なぜなら、一つの見方に固定されてしまうと、他の見方を認めようとしなくなるからです。
一つの見方にひとたびロックインされたら二度とほかの見方をしないというのでは少々頑迷すぎます。
「図書館奇譚」
図書館の地下に潜む奇妙な世界。
知識に満ちた脳を吸いたい老人。
羊男。
目が痛くなるほどの美少女。
ある日図書館を訪れた気弱な主人公は、図書館の地下の牢屋に閉じ込められ、本を完璧に暗記することを求められる。
羊男から「本を読んだら、脳を吸われちゃうよ。知識が詰まった脳は美味しいんだって」と 老人の企みを聞かせられる。
絶望する主人公の元に現れる、美しい少女。
果たして主人公は助かるのか。
シンプルながらも不思議で魅力的なシチュエーションに、わくわくします。
後書きによれば、改訂に改訂を重ねて本作はなんとヴァージョン4。
不可思議な世界観、完結しない雰囲気があり、改訂を重ねるのも分かる気がする。
オスマン・トルコの収税政策に関する本を読みたくなります。
もちろん羊男のできたてドーナツで小休憩をとりながら。
脳が狙われてなければ、二、三日収容されてみてもいいかな。
そういうセミナーがあれば参加したい。
なにせ本屋に泊まれる時代ですもんね。いつかできたりして。
「君と過ごす季節 秋から冬へ、12の暦物語」
君と過ごす季節 秋から冬へ、12の暦物語 (ポプラ文庫 日本文学)
- 作者: 飛鳥井千砂,小川糸
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2012/12/05
- メディア: 文庫
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読みきるのが大変苦しかった。
アンソロジー形式でなければ、最初の三作目で本を伏せるところでした。
残念ながら、全体的に「君と素敵を過ごしていない」作品が多く、出版社と作家がどういうコンセプトで短編集を作っているかわかっていないのでは?と疑問に感じる出来映えです。
「君と過ごす季節」って、聞いて出てきた作品がこれですか?
そもそも、ほとんどの作品が君と過ごしていない。
なんかいらいら疲れてる女性多過ぎ。
例えば、バブル女と現代っ子が邂逅する柚木麻子の「白露」。
面白いけど、君と出会っただけで、過ごしてはいない。
春夏編に比べて、希望のないかさついた短編が多くて、読み進めるのに気力が必要だった。
後半はちょっと持ち直したけど、人に勧めたりはできないなぁ。
個人的には秋冬のほうが季節として好きな分、素敵な作品がなくて残念でした。
作家さんが季節感があまりわかっていないんじゃないかと心配になります。
丸い氷玉を完璧につくるはつ江さん、その氷玉でお酒をのめばびっくりふしぎ体験!とファンタジー感がたまらない一作。
なのに、ラストがもんげー気持ち悪い。
子供のころ遭遇した変質者にを思い出して最悪。
はつ江さんも幸せにしておくれよ!
言葉選びが素敵だったのは、小川糸の「霜降」。
香川弁を「柔らかな波の上に乗っているようなイメージ」というのは瀬戸内感があって好き。
見上げると、空には雲ひとつない。手を伸ばして指で触れたら、はっきりと指紋が残りそうな青空だ。
秋空に指紋残したい、早く秋来い!
最後の穂高明の「小寒」は年末年始と書きやすいお題だからか、作家さんがいいのか、珍しく安定して読めた。
この作品みたいに、それぞれの季節の輝きを短編にしてほしかったです。
「GEAR [ギア] Another Day 五色の輪舞」
- 作者: 菅浩江,小原啓渡,山田章博
- 出版社/メーカー: 出版ワークス
- 発売日: 2016/07/08
- メディア: 大型本
- この商品を含むブログを見る
舞台を小説(というか絵本?)化した一冊。
絵は山田章博画伯とくれば、手に取るしかない。
図書館で借りましたが、早く買いたくてしかたありません。
相変わらずの圧倒的な画力に全頁興奮しっぱなし。
女の子が可愛すぎます。
山田画伯って、いい意味で安定していないんですよね。
女の子が思春期の少女に見えたり、大人の女性に見えたり、幼女に見えたり、万華鏡のように揺れ動く画にくらくら引き込まれます。
また、歯車とロボロイドのなんともいえない雰囲気。
全頁の印刷が凄すぎて、額縁に入れたいぐらいです。
布教用と保存用、鑑賞用と取り揃えたくなる出来映え。
買えませんけど!
ストーリーも最高に良いです。
暗闇の中に佇んでいた少女。
いつからこうしているのか、おんなのこは覚えがありませんでした。
自分が、みんなとうまく噛み合わない、歪んだ歯車のようなものだったことだけ、うっすらと記憶にあります
ーーああ、ここに一筋の光があればいいのに。
光に導かれた先には、壊れたおもちゃ工場で働くロボロイドとの不思議な出会い。
赤、青、緑に黄色のロボロイド。
彼らとの不思議な出会いを通じて、闇と光が少女の心になかでせめぎあう。
働くことと遊ぶこと。このふたつがどうなるのが一番いいのかは判りません。
(略)
ーー本当はみんなそれぞれ、自分で暗さを払うすべを持っている。気付けばいいだけさ。
動かなくなった彼らのために、必死で自分のできること、躍りを届けようとする少女。
彼女が動かなくなっても、ロボロイドに受け継がれる想い。
楽しいだけでいいのか。
苦しいだけでは辛い。
要はバランスなんですけど、割合なんてなかなか分かるものでもないですし。
容易に制御できるものでもないですよね。
では、どうやってモチベーションというか、気力を維持するのか。
迷いながらも少女がたどり着いた結論こそ真理ではないでしょうか。
枯れた社会に生きる人達に読んで欲しい、これぞまさに大人のための絵本です。
原案は京都三条でロングランを誇る演劇GEAR。
一言も台詞がなく、パフォーマンスだけで繰り広げられる舞台だとか。
この本はあくまで文章を担当した菅氏が感じたGEAR。
日によって変わる舞台、受け取る人にとっても変わる舞台。
あぁ、また京都に行く理由ができてしまった。
早く京都に行きたい。
「恋する日本語」
だいぶ前にNHKのラジオで紹介されてて、気になっていた一冊。
コンセプトも選ばれた日本語もいい。
だけど、ショートショートが短すぎるの、もったいない。
あとショートストーリーがちょっと軽いというか繊細さに欠けるかなーって思ってたら、男性の放送作家さんでちょっと役者不足が否めない出来上がり。
言葉の選びが良いだけに、凄く勿体なく感じました。
原田宗典レベルのショート得意な作家さんで作り直してほしいってのが本音。
知ってから読むまで長すぎて、ちょっと期待値げ過ぎたかもなぁ。
コンセプトは大好きです。
広辞苑とか国語大好きな人は軽ーい読み物程度で手に取ると失望しません。
読書メーターのレビュー層を見るに小中学生向けですかね。
初めて知った言葉も多くて、それなりに楽しめました。
酒酒落落:性格がさっぱりしていて物事にこだわらないさま。
字面がいい。
喃喃:ぺちゃくちゃしゃべる様子。
転じて、男女がうちとけて小声で楽しそうに語り合うさま。
この状態を表す言葉があったんだ。
恋水:恋のために流すなみだ。
恋愛映画のタイトルっぽい。