「日本SF短篇50 III: 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー」
Ⅴ→Ⅰへ、逆から読んでます。中間点に到達。
日本SF短篇50 III: 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 日本SF作家クラブ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/06/06
- メディア: 文庫
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一部の例外を除いて、なかなか読みごたえがある作品が多かったです。
以下ネタバレ。
「交差点の恋人」山田正紀
シリーズ物の短編らしいですが、本作だけでも十分楽しい。
肉体を捨てて異次元の住人となった元人類、ある時”脳(レイン)”の一部が発狂。
原因を探るために、”脳”の元となった人間の恋人・マリを電子信号として蘇らせる。
猫と少女の組み合わせはまるで不思議の国のアリスのようで、まぁマリは大学生なのでちょっと違うけど、脳の国のアリスといった感じで楽しかった。
脳の図解を参照しながら読むとより一層楽しめそう。
あるキャンプ、ある軍人の人助け。
安定的でまとまりが良いけど、田中芳樹らしい爽快感はあまりなし。
「滅びの風」栗本薫
人類が環境改善した惑星に訪れる終末。
前半の「死んだはずの人を見た」という怪奇騒ぎと後半の真実がどう結ぶのがいまいちよく分からず。読解力足りなかったかな。
惑星の終末を、集団ヒステリーとして感じているということなのかな??
真実を知った人々が逃げることもせずに、日常生活を営み続けるのがちょっと不思議。
「火星甲殻団」川又千秋
なぜかスターウォーズEpⅠが想起されました。
青年ガラム・機械ブリッツが良いコンビしているなぁとわくわくしたところで、まさかのガラム死亡。
そこからのブリッツの執念たるや…シリーズを手に取るしかない熱さ。
「見果てぬ風」中井紀夫
SFというよりはファンタジー、間違いなく良作。
螺旋状に広がる絶壁の壁に阻まれた世界。
ある日、歩くと止まらぬ男が、「壁が途切れる場所を見てみたい」と思い、家族も故郷も捨てて歩き出す。
愚直ながらも壮大な話で、そこら辺の漫画よりもこっちを映画化して欲しい。
解説によると「世にも奇妙な物語」の原作もされているらしく、着想と話の運びが超一流。
「黄金郷 El Dormido」野阿 梓
久しぶりにSF的に徹底的にダメな作品を読んだ。
一見魅力に思える設定、キーワード、登場人物も、設定だけでは全く面白くないということを読み手に教えてくれる貴重な一作。
こんなに読了した瞬間に本を叩きつけたくなったのは初めてです。
1988年にこれよりもっと面白い一作はなかったんですか、あったでしょう!?ハヤカワ文庫さん!と詰め寄りたくなりました。
ていうか、これプロの作品?中高の文学部の文芸誌じゃなくて?
「引綱軽便鉄道」椎名 誠
戦争の結果、新型兵器により人々が蝕まれ、閉鎖された土地を通る鉄道。
九州や四国の地名が使われてるらしいですが、想起されるのは福島です。
そこで暮らしていた人々の生活が破壊されたやるせなさ、切ない一作。
子どもたちの浮遊魂による幻想が怖すぎて、映像化はちょっと遠慮したいところです。
「ゆっくりと南へ」草上 仁
1年間で10数センチを移動する原生物スロウリィと移住してきた人類。
大陸プレートよりは動いているのかな。
道徳的で温かい一作。
「星殺し」谷 甲州
一生をかけて歩きまくる「見果てぬ風」に比べて、一瞬で数百年過ぎていく一作。
遥か数千光年先で繰り広げられている宇宙戦争、その補給基地とすべく、人工知能がとある惑星のとある知的生命体を、自分たちが望む方向へと操っていく。
もしかしたら自分たちの文明も誰かの意思で操られているのでは…とSF的に興奮しながらも、部隊本部から「計画を急いで。この工程で」という無茶振りに、億劫ながらも命令に従わざるをえない人工知能の姿になぜかサラリーマン的な哀愁を感じられる面白さ。
――結局、五〇〇〇年かけて、ひとつの星を殺しただけか。
「夢の樹が接げたなら」森岡浩之
言語を頭にインストールできるようになった世界。
既存の言語はもちろん、人工言語を作り出し、社内用言語、仲間内言語、恋人用言語も頭にインストールして自分たちだけの言葉を話せる。
人工言語により人類の進化が左右される、という設定が面白い。
しかし、冒頭の少女の様子に立ち返ると、親子で会話ができない哀しさが勝る。
言葉が交わせないから、少女が母親のことを「母親」として認識できていないのが分かる。