「日本SF短篇50 II: 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー」
ラスト2冊目。
「七〇年代、それは日本SFが大いなる飛躍を遂げた年代であった。」
と、解説の出だしにあるように、日本SF短篇Ⅱは全作品が読み応えがある良い作品集。
以下、ネタバレ
「メシメリ街道」山野浩一
自作の難易度を唐辛子マークで表す作者によると、この作品は唐辛子2個。
道端で老婆が古本を売っている情景から既に怪しさ満点だったのが、決して渡ることのできない道路が出てきたらへんで、私の思考は放棄されました。
不条理な世界と強い物語性があるわけでもない、にも関わらず唐辛子マーク5の難作に挑みたくなる不思議な魅力がある作品です。
「名残の雪」眉村 卓
高校生のタイムスリップ、そこから連想される物語とは一線を画す、いぶし銀のようなSF感があります。
友の仇を討つために新選組に入る主人公、少しずつずれていく世界。
その先にある日本とは。
日本がもし植民地化の憂き目にあい、それに対する革命があったら?
歴史を考えるとき、妄想しがちな内容ですが、それを主題に持ってこない作者の構成力。
再び延長世界の後世へタイムスリップした主人公は、この日本こそが自分が選び取った日本だと満足していますが。
逆に、ようやく主権を取り戻し後発国の日本に生きる青年が、主人公の手記と日本史辞典を読み、世界の強国を相手に幾度か戦争をやっていた日本、敗戦国になりながらも経済大国として栄える別世界の日本に対して感じる「そんな日本があるのか」という戸惑い。
大国日本。
それこそ、今のぼくたちが目指しているものではなかったか?そういう日本があると想像するだけで、ぼくの胸は躍るのだ。
その日本を…。
そうした日本のどこが、伊藤さんには気に入らなかったのだろう。
ぼくには分からなかった。
実にうまい、ぜひドラマ化をと思ったら、NHKにて1985年に「幕末未来人」の原作にすでになっていました。
原作扱いなので、少しストーリーは変わっているんでしょう。ラストの若き編集と未亡人のやり取りがあるならば、ぜひ見たい一作です。なんと全14話。
「折紙宇宙船の伝説」矢野 徹
長編の短編化?なのでしょうか。
少し構成が分かりづらいですが、狂女・お仙とその息子、そして語り手の兵隊が織りなすストーリーが長編で読めるものならば、読みたくなる一作です。
短篇としてはあまり良い作品ではないですが、長編のはしりとしては良い。
そういう一作です。
「ゴルディアスの結び目」小松左京
圧縮された部屋、そこに至るまでの物語。
オカルト的な話で、少し人を選ぶかもしれません。
精神探索者という狂人を相手にする主人公が担当する牙の生えた美しい少女。
その精神世界に入り込むわけですが。
6編ぐらいの連作で、まず主人公の精神探索者としての力量を十分に味わった後に、本作があれば楽しそうな世界観。
「大正三年十一月十六日」横田順彌
明治時代の冒険・SF作家、押川春浪を描く一作。
実在する作家を主人公とする作品は珍しく、押川春浪という作家の作品も読みたくなりました。
「ねこひきのオルオラネ」
あまりに心優しくまた熱狂的な作品にこれを夢枕獏が書いたのか!と驚きながらも、以前似たような絵本を読んでいたので、やはり夢枕獏か!と戦く一作。
第2編で一番他人に読むことを勧めたい。
「妖精が舞う」神林長平
戦闘妖精・雪風の第一作。アニメ化もされていますね。
安定の面白さ。
ヤポニウム(大和石)という画期的なエネルギー源を見つけて、独占する老人がひとり。なんて嫌なじじいだ!と見せつけられた上で、まさかのロマン的な展開。
読了後のしてやられか感が悔しくて気持ちの良い一作。
良い子孫達に恵まれすぎていますがお祝いに沸き立つカフェテリアが最高です。
1980年の作品ですから作者は何も悪くないんですが、ヤポニウムとニホニウム、前半は紛らわしいです。
全世界の海が黒く濁り切ったなかで、突如カンブリア紀の海とつながる。
そこで大学生が出会う美しい少女「ネプチューン」。
三角関係からの一方通行な四角関係のドロドロした楽しさから、生命の進化へ突き抜けていく爽快感がたまりません。
ちょっと後半の母親の執念が怖い気もしますが、作風でしょうね。
短篇にしては凝り過ぎている世界設定ですが、「未来史」シリーズの一作であり仕方ないですね。
天使猫の有能さに反する可哀そうな生い立ちと人生が、銀世界の朝に輝いていました。