読書はしご

読書雑多文。

「京都西陣なごみ植物店」

寒い日もありますが、だいぶ暖かくなってきたので植物の話を読みたくなりました。

主人公の府立植物園新人職員・神苗ともに、プラントハンターを目指す明るい「植物の探偵」を名乗る花屋の実菜が京都を舞台に植物をめぐる謎を解き明かす。
人は死なない日常のミステリー短編6作。書き下ろし。

府立植物園は何回か行ったことがあって、園内の雰囲気が好きなのでそこを舞台にした作品でとても楽しめました。


また、西陣ではないけど、千本通に谷川花店という雰囲気も良くて、可愛らしい苔玉売ってるお店が(たぶん今も)あって、イメージしやすかったです。京都でも北区・上京区舞台の話は珍しいですね。観光客も少し落ち着いて、パン屋や洋食屋もたくさんあって暮らしやすいエリアでしたね。

 

ちょっと実菜ちゃんが春の女神やら、プラントハンターを目指すやら、植物の探偵やら、設定が大渋滞起こしてるような感じ。
出会いで春の女神ー!て主人公は感動してるけど、肝心の春っぽさの描写がかなり薄くて、読み手としては冒頭から置き去りにされた気持ち。作業着にドリル装備、食戟のソーマみたいに一風変わった組み合わせの料理を探求する実菜。キャラクター的には好きだけど、どちらかというと姉の花弥のが春の女神ぽくないですかね?おっとりしていて、優しげで、京女らしく締めるところはしっかり締める(ちょっといけずなお姉さんも見たかった)。
そして、両親みたいにプラントハンターを目指すのに、生花店を営むお姉さんを手伝って京都にいるのはなぜ?両親に付いていたほうが良くない?国内でプラントハンターらしく植物を追い求める描写は特にないですし(謎を解き明かすために滋賀県や大原には行く程度)。最終話で祖父が京都で有名な種苗メーカーの社長なんて設定が早々に出てきてしまうと単にお嬢さんの道楽?って、枯れた社会人は厳し目に見てしまうから単に変わった植物が大好きな花屋店員で良かったんじゃないかなと思いました。探偵してるのは販路拡大のためで理由つくし。シリーズ化するなら2巻目から出てきてほしい設定。

話自体は歴史カフェやら論文に悩む院生やら、なんだか本当に京都で起こってそうな話で、森見登美彦さんよりは現実寄りの京都な感じがしました。
祖父が孫たちに気分転換と教育を兼ねて、庭にお小遣いを隠す話はかなり面白かったです。「見立て」の概念を子どもたちに知識ではなく、生活の術として伝授してくれるなんて、良いおじいちゃんだなぁと思いました。

 

通勤のお供にさくっと読める系で、良かったです。カフェのメニュー案を主人公の男性側も試作するのがとてもフラットな感じで新鮮でした。

「境内ではお静かに」

全体的には99点なのに、4話目がどうしても納得いかないので60点。

境内ではお静かに 縁結び神社の事件帖

境内ではお静かに 縁結び神社の事件帖

 

良くできたお話といえる。

兄が婿入りした神社に転がり込まされた大学中退生と、冴えざえと美しいこれまたとある事情で神社に転がり込んできた花盛りの巫女さんの子のボーイミーツガール本。

 

全体的にはライトノベルで、面白い。

ただ厳しい職場に耐えかねて自殺した先輩が忘れ去れずに、自分も教師なんて無理って大学中退した主人公。

菅原道真みたいな元人間の神様が、後からの人間に良いように使われているみたいなの嫌だ、だからその枠組みが嫌いな自分には信心がない、という主張。

先輩が自殺したから大学やめた自分は、つまり先輩言い訳にして現実から逃避していて、それって先輩の自死を利用してるって思わないのかな??

ここらへんの考え方、よくわからない。

 

そして、第4帖の顛末は納得できないというか容易に赦してはいけない事件ではないかと思う。

女性を手にいれるために、自作の薬混入して拉致する人を「大変反省していたので」とあっさり赦した上、事件自体を積極的に隠匿してもいいのだろうか…。

そもそもその前に偽アカウント作って、嘘の就活失敗話を仕込んだり、実在しない妹と相談してくれって、巫女さんな彼女を誘い出したりして、悪質にも程がないです?

最後の話や彼氏彼女の事情等は凄く良い、絶賛したい。

伏線の回収もすごく上手い。唸りました。

だけど、姉を自殺に追いやったかもしれない事態から男性不信に陥ってもおかしくない彼女が、同じく女性の意思をまるで無視した犯行をした大学生に対してあまりにも軽くて、バランスが取れていないように感じる。

惜しい。

第4帖がなければ100点なのに、あの話の存在意義はなんなのだろう。

「最後の証人」

タイトルが胸に響く一作

最後の証人 (宝島社文庫)

最後の証人 (宝島社文庫)

 

 私としては宮部みゆきレベル。

この社会性の高さと、日常を営む人たちを襲う悲劇と、事件へのひたむきさ。

いやミス読むぐらいなら、柚月裕子読んだほうがいい。

(注:個人の感想です)

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「ほっこりミステリー」

 

ほっこりミステリー (宝島社文庫)

ほっこりミステリー (宝島社文庫)

 

 

イヤミス」ではなく、人の死なないミステリーを!というコンセプトで集められた短編集。

短編といっても、シリーズものの読み切りな短編なので、真の短編好きな私としては販促みたいな本書は苦手です。

だがしかし、けっこうどの作品も毛色が違っててレベル高い作品が多く、「短編楽しい。設定や発想もいい。これはシリーズにも手を出すしかないな!うん、今度探してみるか!」と鼻息荒くなってしまっていて、まんまと発行元に踊らされています。

 新しいシリーズものを探している人には良い本かな。

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「メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション」

 

メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション
 

短編集「本をめぐる物語 一冊の扉」に収録されていた「メアリー・スーを殺して」が非常に面白かったので、同タイトルが本になっていた本書も手に取ってみました。

この本の謎に全然気付かなかった。悔しい。

読書メーターで赤っ恥かいた気がする。

 

以下ネタバレ。

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「雀蜂」

 

雀蜂 (角川ホラー文庫)

雀蜂 (角川ホラー文庫)

 

 「黒い家」、「ISOLA」等最高レベルのホラー・ミステリーを書き上げた貴志祐介でも、完成度の低い作品があるのだと弘法も筆の誤りを感じさせる本作だった。

 

 冬の雪で閉ざされた冬の山荘で、人気ミステリー作家が目を覚ます。

消えた妻の代わりに姿を現したのは、主人公にアナフィラキシーショックを引き起こす蜂。

以前に刺されたことがある主人公は、もう二度と刺されるわけにはいかないと身構え、恐れる。

しかし、外界への連絡手段を絶たれた主人公に残された道はただ一つ。

死神と化した蜂と闘うことだけだった。

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「クローバー・リーフをもう一杯 今宵、謎解きバー「三号館」へ」

 

魔法のように俺という人間が解体されていく。それは恐ろしくもあり、心地よくもあった。世間で生きていて、これだけ自分を理解される瞬間なんて存在しないだろうから。

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