読書はしご

読書雑多文。

「 NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2015年 12月号 」

聖母マリアの特集目当てだったけど、味覚にフォーカスした記事の方が読みごたえがあった。

ナショナル ジオグラフィック日本版 2015年12月号 [雑誌]

ナショナル ジオグラフィック日本版 2015年12月号 [雑誌]

①「聖母マリア 世界で最もパワフルな女」
マリア信仰はもともとあった地母神信仰と結び付きやすく、世界的に受け入れられやすい土壌があると思う。
そういう所に深く切り込んだ地歴的記事が読みたかったのだけど、マリア出現にフォーカスされててちょっと期待外れだったかな。
出現した様子だのガン細胞消えたのだのどうでもいい。
宗教がどうでなく、奇蹟体験は個別的なものだ。他者に応用されない現象に興味はないからです。
マリア信仰の発展や類型を知りたかったな、別の本を今度漁ろうかなぁ。

ただ40頁の見開きで「世界で目撃された聖母」一覧は非常に興味深い。
世界地図上に目撃された場所が示されていて、バチカンに認定されたものやら、調査中やらがこんなあるとは。
また下部にある1531年以降のマリア出現数も面白い。
1900年以降急増しているのだけど、これが情報化社会の影響なのか世界的混乱影響なのか。
ここらへんをもっと掘り下げてほしいなぁ。

②「おいしい」を科学する
そして、マリア特集よりおもしろいのがこの「おいしい」特集。
単に舌にある味蕾だけではなく、脳、舌、嗅覚、食感、記憶などを総動員して味わう仕組みが分かりやすく解説されている。
65頁の表は分かりやすくて、実際なにか食べたくなる。

以下、雑学的に覚えてしまったこと。
ねずみはデンプンに非常に反応する受容体があり、人間が飲んでも味がしないスープを極上の味と感じる。
ナマズは皮膚やえらやひげ等の全身が味蕾で覆われている。故に泥水の中で獲物を捕らえられる。
猫など肉食動物は甘味をまったく感じない。
生物進化の過程でそれぞれの生き物が取捨選択を行っているのが味覚の面からもよく分かった。
ちなみに人間は毒物を避けるため、20種以上の苦味を感じる。一方で甘味については数種類しかないとのこと。味覚を危険察知のために発達させてきたのがわかる。

また一方で、現代社会への警告も発せられる。
消費者により本能的に取捨選択されるために、健康志向の食品よりも不健康な食品のほうが市場に受け入れられる。
一例として、トランス脂肪酸を抑えたマックのポテトや人工甘味料を加えたペプシコーラなど。
食品会社のジレンマはそれだけで特集してほしい話題。
味覚が危険察知のために進化してきたなかで、塩分や糖質など古代より不足しがちだっものについては味覚面でも人類ノーガード状態だな。

また先進国の子供たちの砂糖の過剰摂取は、実体験でも親が与えすぎて大丈夫かなと不安になっているので、参考になった。
薬物依存の一因として甘味を感じるために発達した神経回路が乗っ取られるという関係は初めて聞いた。
今後、味覚からこういった社会現象にアプローチする研究が増えるかもしれない。
お菓子ひとつ、飲み物ひとつ取っても、科学技術あり、社会問題あり。
一見単純に見えてもやはり複雑怪奇な現代社会だな。