読書はしご

読書雑多文。

「本をめぐる物語 小説よ、永遠に」

 「本をめぐる物語シリーズ」で一番本書が好きだったな。

この本だけは手元において、読み返したい作品が多い。

8作品中、6作品が当たり。

ボーイミーツガール、AIによる小説執筆、読書による目覚め、分かれ。小説の存在意義。なかなか豊富なテーマでよろしい感じ。

 

「真夜中の図書館」神永学

ボーイミーツガール?な一作目。

書店で見かけるけど読んだことのない「心霊探偵八雲」でしたが、切なくて面白かった。これはシリーズに手をだしてもいいかも。

 

「青と赤の物語」 加藤千恵

小説、物語が禁じられ、封じ込められた未来。

ボーイミーツガール2作目、少女と少年は真夜中の図書館で物語と出会う。

真夜中のわくわく感が凄い。

生まれて初めて読む小説×深夜×図書館、これは止まらない。

 

「壊れた妹のためのトリック」 島本理生

これはいまいち。叙述は好きだけど、このアンソロジーでこの物語?

壊れた妹、という設定だけ。中身はない。

 

「ゴールデンアスク」椰月美智子

読まない人が、小説を読み始めるまで。

物心つく前から活字中毒なので、読まない人の話は我が身から離れすぎていて楽しい。

そっけないけど、さり気なく新作を話す小説家が好き。

 

「ワールズエンド×ブックエンド」海猫沢めろん

ボーイミーツガール?3作目。そして、学生物書きとAIの出会い。

AI云々は正しいのだろうか、興味深い分野。

少年が狂った?のはもったいないかも。

いつかAIによって書かれた小説が大ベストセラーになるのだろうか。

 

「ナオコ写本」佐藤友哉

自殺した女友達とそっくりな何か、という設定は面白いんだけど。

 

「あかがね色の本」

最初の出だしが暗すぎて不安だったけど、一番好きな話。

ボーイミーツガール4作目、物語好きな少年と少女が出会う。

「私たちが幼かった」というけど、他人を気にしてばかりの周囲が幼いんだよね、本当は。

第二ボタンとセーラー服のスカーフ、ドビュッシーの「月光」、美しすぎるモチーフと物語。

心から信じてくれた誰かがいた。その誰かと世界を共有できた。私にはその事実だけで十分なのです。

この作品は「月光」を聞きながら、ゆっくり読み直したい。 

 

「新刊小説の滅亡」藤谷治

新刊小説をすべての出版社がやめる、という小説家と読書家としては悪夢のような設定。

私も5年程前にライトノベル的作品が小説界に蔓延したときに、同じようなことを考えたことがあったので、身につまされるように読みました。

曰く、新刊が出るから古典が霞む。駄作のような新作しか出ないのならば、もう新しい小説は出さず、古典をひたすら読んだほうがいいと思った時期があります。

でも、最近そうじゃないと思いました。

過去の作品を読んで、平安でも中世の人の世界観がわかる。海外の作品を読めば、古代ギリシャも、中世のイタリア、近代のフランス…私たちは様々な作家と本を通じて触れ合える。

過去だけじゃない、現代だって、流動化しつつある価値観を小説を通じて、確認したり、発見したりできる。それは誰かの思考や、行動をともに追う小説だからできることだと思うのです。

現代は出版が容易な分、気骨のない小説の乱造も確かにあるかもしれないけど、やっぱり小説は最も時代性を反映するものだと思う。

それぞれの時代の人と小説を通じて対話するためには、新刊小説は必ずないといけない。

私たち読書家は、永遠に新しい一ページを待ち続けている、本が読めなくなる日まで、読み続けたいのです。

たとえ自分達が消えても、小説さえ生き残れば時代が残る、最近はそう思います。