「本をめぐる物語 小説よ、永遠に」
- 作者: 神永学,加藤千恵,島本理生,椰月美智子,海猫沢めろん,佐藤友哉,千早茜,藤谷治
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2015/11/25
- メディア: 文庫
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「本をめぐる物語シリーズ」で一番本書が好きだったな。
この本だけは手元において、読み返したい作品が多い。
8作品中、6作品が当たり。
ボーイミーツガール、AIによる小説執筆、読書による目覚め、分かれ。小説の存在意義。なかなか豊富なテーマでよろしい感じ。
「真夜中の図書館」神永学
ボーイミーツガール?な一作目。
書店で見かけるけど読んだことのない「心霊探偵八雲」でしたが、切なくて面白かった。これはシリーズに手をだしてもいいかも。
「青と赤の物語」 加藤千恵
小説、物語が禁じられ、封じ込められた未来。
ボーイミーツガール2作目、少女と少年は真夜中の図書館で物語と出会う。
真夜中のわくわく感が凄い。
生まれて初めて読む小説×深夜×図書館、これは止まらない。
「壊れた妹のためのトリック」 島本理生
これはいまいち。叙述は好きだけど、このアンソロジーでこの物語?
壊れた妹、という設定だけ。中身はない。
「ゴールデンアスク」椰月美智子
読まない人が、小説を読み始めるまで。
物心つく前から活字中毒なので、読まない人の話は我が身から離れすぎていて楽しい。
そっけないけど、さり気なく新作を話す小説家が好き。
「ワールズエンド×ブックエンド」海猫沢めろん
ボーイミーツガール?3作目。そして、学生物書きとAIの出会い。
AI云々は正しいのだろうか、興味深い分野。
少年が狂った?のはもったいないかも。
いつかAIによって書かれた小説が大ベストセラーになるのだろうか。
「ナオコ写本」佐藤友哉
自殺した女友達とそっくりな何か、という設定は面白いんだけど。
「あかがね色の本」
最初の出だしが暗すぎて不安だったけど、一番好きな話。
ボーイミーツガール4作目、物語好きな少年と少女が出会う。
「私たちが幼かった」というけど、他人を気にしてばかりの周囲が幼いんだよね、本当は。
第二ボタンとセーラー服のスカーフ、ドビュッシーの「月光」、美しすぎるモチーフと物語。
心から信じてくれた誰かがいた。その誰かと世界を共有できた。私にはその事実だけで十分なのです。
この作品は「月光」を聞きながら、ゆっくり読み直したい。
「新刊小説の滅亡」藤谷治
新刊小説をすべての出版社がやめる、という小説家と読書家としては悪夢のような設定。
私も5年程前にライトノベル的作品が小説界に蔓延したときに、同じようなことを考えたことがあったので、身につまされるように読みました。
曰く、新刊が出るから古典が霞む。駄作のような新作しか出ないのならば、もう新しい小説は出さず、古典をひたすら読んだほうがいいと思った時期があります。
でも、最近そうじゃないと思いました。
過去の作品を読んで、平安でも中世の人の世界観がわかる。海外の作品を読めば、古代ギリシャも、中世のイタリア、近代のフランス…私たちは様々な作家と本を通じて触れ合える。
過去だけじゃない、現代だって、流動化しつつある価値観を小説を通じて、確認したり、発見したりできる。それは誰かの思考や、行動をともに追う小説だからできることだと思うのです。
現代は出版が容易な分、気骨のない小説の乱造も確かにあるかもしれないけど、やっぱり小説は最も時代性を反映するものだと思う。
それぞれの時代の人と小説を通じて対話するためには、新刊小説は必ずないといけない。
私たち読書家は、永遠に新しい一ページを待ち続けている、本が読めなくなる日まで、読み続けたいのです。
たとえ自分達が消えても、小説さえ生き残れば時代が残る、最近はそう思います。