「美しい日本のくせ字」
え?汚くて読み辛い?
いいえ、あなたのくせ字が大好きなんです!
小学生の時に宿題係でした。
係の仕事は、今日の宿題をみんなが提出しているかどうかチェックすること。
小学生だから、名前を書き忘れている子の多いこと多いこと。
おかげさまで、名無しの宿題の犯人探しのためにクラス全員の字が判別できました。
この丸文字はあの子、この豪快にはみ出すのはアイツ、このやたら細長いのは意外にもあの子と。
なるほど、みんな同じ日本語を書いているのに、書き方でこんなに千差万別なんだ。
もう字だけで誰のか分かっちゃうねーって、もうひとりの係の子とぺちゃぺちゃ喋りながら見極める作業をしていたのを今でも思い出せます。
字で人となりを感じることができる、そのことに気付いて以来、私は美しい字よりくせ字がどうも好きでたまらない。
もちろん、達筆な字が嫌いな訳ではありません。
ご朱印を集めるようになってから、寺社で頂く達筆な字の虜でもある。
誰が書いたかわかりづらい、没個性的な教科書的な字は好きではないのです。
しかし、世間的にはくせ字は悪。
私としては理解しがたいことに、なんと世間の皆様は悪筆よりのくせ字の解読技術が意外と低い。
私自身が悪筆なので、だいたいどんな字も普通に読めるのですが、どうやらほとんどのあの悪筆は解読されないようです。
そして、読めなけりゃ貶されるのもやむなし、それが世間一般の常識なわけです。
というわけで、長年こんなこと考えているのは自分だけだろうと思っていたわけですが、どんな道でも先人はいるらしい。
この本に出会えました。
芸能人、職業人、名も知りえぬ市井の人、実に幅広いくせ字が大集合。
ただくせ字を集めただけじゃないのが、この本の素晴らしいところ。
くせ字好きの筆者による絶妙な解説や妄想、推測に加えて、中国や日本の偉人なる書家たちの字もくせ字の比較にしてしまう大胆さ。
そして、日本の女子たちの丸文字、へた字の変遷まで、しっかり分析、豊富なサンプルとともに明らかにされている。
そう、個性だけじゃない。
字は時代も反映しているのです。
と、感心したところで、とある一般人と中国の石碑に残った字体がそっくりであったり。
なるほど、時代が変わっても似たような字を書く人っているものなんだぁ、と色々感心します。
特に目から鱗だったのは、外国人の書いた日本語。
田舎だとあまり外国人の手書き文字って見ないのですが、なるほどカレー屋の看板は確かに外国人率高いかも。
しかし、ある広告の文字を見ただけで「これは日本人が書いたものじゃない。これを日本人が書いたとすると、その人の人生が気になる」とまで断言できるのは、くせ字愛好家としての能力面高すぎて、感服致しました。
この本の魅力を筆者による独特の感性により、更に高め、そして支持されているのが、発行から数ヵ月で重版されている事実に裏打ちされているのではないでしょうか。
さて、今年も年賀状の季節です。
旧知の友の筆跡を楽しむ時期が訪れました。
いつも印刷だけで済ませている方も多いと思います。
誤字脱字上等。キレイじゃないくせ字でOK。
たった一言でも構いません、どうぞあなたの文字を見させてください。
その文字を見るだけで、あなたと過ごした時間に戻ることができます。
最近は手書きで書く機会も減りました。
忙しい師走にこそ手にして欲しい一冊です。