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読書はしご

読書雑多文。

「パン屋を襲う」

久しぶりに村上春樹を読むことにした。

パン屋を襲う

パン屋を襲う

図書館の書棚に分厚い本の間にこっそりピエロが表紙の、こんなふざけたタイトル。
手に取らざるをえない。

村上春樹は中学生の頃にそのネームバリューをよく理解できずに読み漁った。
「風の歌を聞け」に感銘を受けたけど、「ノルウェイの森」は閉塞的であんまり好きじゃない。
海外生活のエッセイが凄く面白くて、新鮮だったな。
ただ、世界の村上春樹、という位置付けがよく分からないし、天の邪鬼なので新作とか興味持てない。
なんでノーベル文学賞と騒がれてるんだろう。
嫌いじゃないんだけど、世代が違う読み物という感じ。
作風に70~80年代の雰囲気が漂ってる。

でも、この作品には良い意味でその古臭さがスパイスとして活きている。
まず「パン屋を襲う」で圧倒的な空腹をして若者がパン屋をパン目当てで襲撃するという計画が良い。

神もマルクスも、ジョン・レノンも、みんな死んだ。とにかく我々は腹を減らせていて、その結果、悪に走ろうとしていた。空腹感が我々をして悪に走らせるのではなく、悪が空腹感をして我々に走らせたのである。なんだかよくわからないけど、実存主義風だ。

最近の若者なら、ネットのすき家強盗マニュアルを読んで、深夜に現金強盗→コンビニかファミレスで食欲を満たすところである。

そして、パン屋入店後にオバサンが居なくなるままでの描写が病的に良い。

揚げパンとメロン・パンは彼女にとってはひとつのテーゼに過ぎなかった。それはまだ仮説の域にとどまっている。その検証には今しばらくの時間が必要だった。

更に、いざ強盗に入ったあとのなんとも言えぬ店主との攻防。攻防?
一作目を読み終えた時に空腹であれば、迷わずパン屋に行き、パンを買い漁り、家でワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴きながらパンを食むべきである。

ここまでで爆笑しながら、ニ作目を読むと困惑のままに今度はマクドナルドに行きたくなる。
主人公はなんという女性と結婚したのであろう。
呪いも怖いが、準備が良すぎて怖い。
もちろん強盗なんて、してはいけない。
ビックマックを30個注文してもいけない。

幸いにして、本書を読みながら珈琲と羊羮に舌鼓を打っていたので、パンとマックの誘惑に抗えた。
空腹の時に本書を手に取らないように。

後書きにあるように、本作は一作目は1981年、ニ作目は1985年に発表されたものに手を入れて発刊されたもの。
初期のキレが存分に発揮された作品でした。