「大人が魂消る 日本の古典 怪談・珍談奇聞」
江戸時代に編纂された「耳袋」や「甲子夜話」等から珍談奇聞のなかから、大人が楽しめる82篇を厳選したもの。
大人は、男女の間が一筋縄ではいかず、たがいの愛が深くなるほど、きれいごとではすまなくなることを知っている。人生が皮肉と変転に満ちたものであることを、不如意と不如意が鎖のようにつながる苦いものであることを、いやというほど知っている。
(略)
本書の82篇は、子供に読ませるには味が辛すぎる、渋すぎる。もったいない、とも言える。
恐ろしいもの、不可思議なもの、珍奇なもの、どの話もとても怪異なエッセンスがたっぷりで楽しめました。
江戸だけでなく日本各地の怪異話なので、第三章にあった「山姫の恵み」は地元岡山備前の話が出ていて、「あの備前の山中でも遠野物語のような山で怪しき女に遭遇する話が昔あったのか」と楽しめました。
あと、第一章の「妻の夢に出くわした夫」は離れて暮らす夫婦の苦しみと思いやりが溢れてて、良い話でした。
夫は妻の浮気を疑ったり、妻の寂しさを知ったり、妻は知らずに亡くなってしまったのかと嘆いたり、最後は安心したりして、たった
一晩でこころの動きが目まぐるしく変わり、特に悪いことしたわけでもないのに、なにか可哀想な気もします。
やはり日本の夏は怪しきものを楽しみたいですね。
「夜空と星の物語 日本の伝説編」
- 作者: 多摩六都科学館,森山晋平,,日本星景写真協会
- 出版社/メーカー: パイインターナショナル
- 発売日: 2016/11/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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また日本でも、大陸から伝来した中国の星座が古来より使われてきた経緯がありました。
そんな中でも、日本で語られてきた星をめぐる物語が集められていて楽しかったです。
火星の王子、すばるの6人の女など、日本独自っぽい話あったり。
やっぱり織姫と彦星に似た話があったりして、この話の影響力の強さには驚かされました。
他にもシリーズがあるので、ぜひ読んでみたいです。
「人生はあはれなり… 紫式部日記」
他の本でも読んだことがあるけど、紫式部てネガティブさん。
本書では、平安系絶望女子という大変失礼な称号を頂いています。
紫式部日記をベースに、宮仕えの日々を漫画で紹介されていて、非常に分かりやすい。
藤原一門として彰子に仕えた紫式部、その宮仕え前に源氏物語をすでに書き始めていたとは知りませんでした。
そして宮仕えにより感じる紫式部の失望、周りへの厳しい目線、憂いに戸惑いに無常観。
教養隠すために「漢字の一の字もわかりませーん」とか大変だったんだろうな。
紫式部がネガティブ発言しちゃうのも、時代や境遇に大いな原因があるわけで。
単に紫式部がネガティブなわけじゃない…うーん、いやいや本人の性格もあるかな。
読みやすくて、平安系絶望女子に共感してしまう。
平成も終わりが見えてきた時代に生きる私たちは紫式部に会ってなんて言えるだろう。
まだまだ職場で男性以上に知識があると疎まれたり。
でも、平安時代と違って女性も漢字使えてます。
文学の地位は上がりました。
そして貴女の源氏物語が好きで海外から訪れる人もいます…などなど。
平安から進んだことも進みきれてないこともありますね。
そして式部を語る上で欠かせない清少納言。
同じような環境ながらも、天真爛漫に育った清少納言。
同じような才に恵まれながらも抑圧されて育った紫式部。
「兄弟より漢学の才能あってもな。お前が男なら良かったのに」て父に言われたら、やる瀬ないですよ。
また、それぞれが仕えた主が敵対する状況。
性格が真逆なので、実際には宮仕えの時期がずれており面識がないながらも当然反発し合うものと語られる二人ですが、もし仕える主が対立せず同僚であったなら、きっと清少納言は漢学の才などを隠す紫式部の本質を見抜き、「ありのままでいい。言いたい人には言わせおけ。いずれ黙る」とアドバイスして、良いロールモデルになったと思うんですよね。
ロールモデルいないって、自分で悩みながら切り開くしかなくて、よっぽどの自信家じゃないとつらいですからね。
そんな彼女にも、本来分かれている部屋を一緒にするほど仲の良い友人小少将がいたりして。
あー、やっぱり女の友達って大事ですね。
早くに亡くなっちゃいますけど。
源氏物語を単にプレイボーイの物語でなく、紫式部が宮廷で見つめたたくさんの人々の一生、それが物語として結実したのが源氏物語なんだろうなあとしみじみ。
巻末には原文が書いてあり、「紫式部が書いた本当の文に触れてほしい」って感じで好きです。
私が高校生の頃にこんな素敵に古典を紹介してくれる本があったらなら、もっと古文の点数良かったろうな!
今の高校生が羨ましい!
ショーペンハウアー「読書について」(光文社古典新訳文庫)
大学の研究サークルで、新入生向けに研究担当の先輩が選んだのが「読書について」でだった。
たしかショーペンハウエル、だったと思うんだけど、昨今のご当地読みでショーペンハウアーと読むのだろうか。
手に取ったのは、光文社による新訳なので、大学の時に読んだであろう岩波文庫の訳からするとだいぶ読みやすい…と思う。
そもそも先輩も「読みやすいし、大事だからコレが入門にいい」て選んでた気もする。
大学卒業ごろから、やたら新訳が増えたような気がする。気がするだけかも。
昔ながらの古典で「なんのこっちゃ」言いながら読み進むのもいいと思うし、新訳を読んで「古典言うけど、読みやすいやん。もっと読もう」となるのもいいと思う。
とりあえず、古典と言われるものは社会科学の素養と思うので、読んで損はない。
どんどん読もう。
「読書について」をまず読みたいにもかかわらず、本作は三部収録されていて、肝心の目玉は3番目に配されている。
「自分の頭で考える」、「著述と文体について」、「読書について」の3部。
ショーペンハウエル(このほうが馴染みがある)の切れのいい文は読みやすいし、爽快。
1、「自分の頭で考える」
先日NHKで不寛容社会について特集番組があったが、自分と同じ意見しか人は見ようとしない、ってことについて論じられていた。不寛容社会に興味がある人は読めばビビッとくるはず。
2.「著述と文体について」
ドイツ語を学んでないので面白さ半減。ショーペンハウエル氏の「昨今のやたら文字を省略したがる研究者と物書き野郎は国の恥にしかならない。筆を折れ!そしてドイツ国民よ!こいつらが書いた文は読むな。ゴミだ!」と意気込み荒く論じられているのが、大変面白い。
「いい文章っていうのは、明確で読みやすく、簡潔だ!」とか言いながら、ひたすらに不満をぶちまける本文はどうなんですか!それに、言葉は生き物だぜ?ショーペンハウエル先生よぅ…と笑って読めました。
正しい国語と現代の言葉をめぐる議論ていうのは、いつの時代も変わらないもんですね。
3.「読書について」
「いいか、読書っていうのは他人の思考をトレースする(させられる)時間だ。読書したからって、自分で考えた気になるな!間違えるなよ?いいか、肝心なのはあくまで自分が思考する、これは普段からできることだ。自己努力が何よりも大事なんだ!!」ってことですね。
時事ものとか、研究書読むときには、心得ておくべき最低限の心構えです。
中高校生とか、ここらへんの心構えができていないときに、過激な文章や思想に触れると危ないんだぜ、っていうのはISに染まる若者とかうっかりEU離脱に投票しちゃうイギリス国民見てればわかりますね。
情報リテラシーという言葉が出る遥か昔の19世紀から、しこたま言われていることです。
新訳のおかげかはわかりませんが、ショーペンハウエル氏と居酒屋で一緒に飲みたくなったなぁ。
言葉って当世の時代感を反映させるものであって、文化論から言えばそういう点からも時代分析できるわけですし、いいじゃないですかぁあーって。
あと、「読書について」で、一部の人しか本当の思考ができないとか、超上から目線過ぎです!他人の思考をトレースして、ようやく新境地に気づいたり、たどり着けたりもするわけで、思考トレースの功罪の罪ばかり見すぎじゃないですか?まぁ、自頭がよろしい先生には分からない下々のお話ですけどぉぉぉ?って絡みたい。