読書はしご

読書雑多文。

「万能鑑定士Qの事件簿 Ⅳ」

万能鑑定士Qの事件簿IV (角川文庫)

万能鑑定士Qの事件簿IV (角川文庫)

うーん、騙された。
本文前に注釈があれば誰だって騙されるわいー、と思いながら、上手い手法だと感嘆せざるを得ない。

ノストラダムスの大予言」というコレクターが所有する映画ポスターが、一枚、また一枚と焼かれていく。
放火の上、家一軒が焼失する事件もあるが、一枚だけを執念深く焼く犯人。
知能犯?異常犯?
犯人の意図が分からないなかで、コレクターの手元から焼かれていくポスター。

今回の改心劇は犯人と莉子ちゃんの接触時間が長いので、唐突感がない。
後日談もなく、気持ちいい終わり方。
人生の瞬間瞬間に「ふさわしい自分であるために」成長したいという志が素敵。
見習おう。

一方で犯人の犯罪者の親を憎みながらも、遺した遺産を手に入れるために、そして鬼籍に入った親を見返すためにポスターを焼く執念。
虚しく哀しい。
作中であまり描かれていない中で、その心情は推察するに痛ましい。
苗字を呼ばれて親を思い出し、自分が孤児同然の扱いを受ける境遇を苦痛に感じる。
異父弟妹と仲が良くても、救われない気持ち。
この事件で莉子に会えて、犯人と糾弾されず、自分の想いを汲み取った言葉をもらうことで、未来の自分を信じられる。
ちょっと出来すぎだけど、物語だからこそこの結末が良いと思う。

最後の文章が本当に気持ちいい。

蛇行する小道が、マツバギクを敷き詰めた絨毯のような花壇を愛でる機会を、幾度となく与えてくれる。人生もたぶん同じだと莉子は思った。行く手は絶えずうねっている。曲がりくねった道。でもその両脇には花が咲いている。角にさしかかるたびに美しいものに触れられる。遠回りであっても、心は洗われていく。それが成長というものだろう。
わたしもゆっくり道を歩もう。目的地に着いたとき、その瞬間にふさわしい自分であるために。

「18の奇妙な物語 街角の書店」

ハヤカワミステリマガジンのノリで選ばれた「奇妙な味」の短編18篇。
編者の中村融氏のコメントが秀逸。
巻末の作品紹介されている「時の娘」等も借りたくなりました。

まずは太っちょ礼賛の「肥満翼賛倶楽部」でなんだこりゃと思いながらも、「ディケンズを愛した男」で絶望に囚われ、「お告げ」でにっこりしたら、読者はもう本書の虜。
一番は爆笑した「M街七番地の出来事」に。
タイトルから恐ろしい殺人事件かと思ったら、ガム。
男の子がガムを噛み続けて生まれたものに爆笑。
捨てたガムは噛みたくないなぁ。

あと「旅の途中」は是非映像化して欲しい。首が体を求めて、孤軍奮闘するなんていったい誰が思い付くと言うの?

本書は「奇妙な味」というテーマで選ばれた短編集。
江戸川乱歩が造語し、そこから「読後に論理では割りきれない余韻を残す、ミステリともSFとも幻想怪奇小説ともつかない作品」という意味に発展した作風を示す言葉。
確かになんとも言いがたい作品が多い。

「姉の夫」はホラーだけど、切なくて良い。

「ナックルズ」は嘘から真の都市伝説。サンタクロースの対抗軸がいたら?

「試金石」すべすべした石、怖い。店主は悪徳商人め。

「アダム氏の邪悪の園」男性じゃなくても映像化して欲しい。

巻末のあとがきも、編者がどういう意図で(もちろん奇妙な味を追及して)、どういう更正にしたかったかが語られていて楽しい。

「なぜなら雨が降ったから」

 

なぜなら雨が降ったから

なぜなら雨が降ったから

 

ハヤカワミステリマガジンで紹介されてて、梅雨時に絶対読もう!と固く決意していた作品。

余談ではあるが、ハヤカワミステリマガジンは昨今にしては心配になるほど、率直にグレートな記事が多い雑誌である。

提灯記事ばかりの某オサレ的読書雑誌に比べて、実にマニアックな構成と記事が多い。

ミステリー好きにしか薦められないが、「最近なにかグッとくる本、読んでない。読みたいなぁー」と思ったら、ダ・ヴィンチなんぞを手に取る前に、ハヤカワミステリーマガジンを取るべきである。

記者たちのマニアックにすぎる知識と読書歴に、「私なんぞはまだ読んだうちに入りませんでした。ミステリー元祖から読み進めていきます、ハイ」と己の不勉強ぷりに小さくなれること請け合い。

 

そして、確か去年ぐらいに紹介されていたのが、本作「なぜなら雨が降ったから」。

短編5話が収録されている。

 

主人公の大学生が出会ったのは同じアパートに事務所・自宅を構える探偵・揺木茶々子。

この探偵、雨女である。

ミステリ好きならば、もうこの時点のこの本の半分が分かっただろう。

そう、雨女たる探偵が、雨を契機として事件の謎を暴きまくる本である。

 

雨は我々の日常の予定を狂わせる。

突然降る雨、降らない雨。

犯罪を犯した犯人に急に降ってきた雨。

犯行現場に施した工作も、雨が降ったせいで水の泡。

なるほど、目敏い探偵にはお見通し、というわけか。

その通り、という本作。梅雨のうっとおしい雨の時期に手に取るにふさわしい本です。

 

作者の森川 智喜は「一つ屋根の下の探偵たち」を読んで、つまらないわけじゃないが二度と読まないだろうな、と思ってたので、再度手に取った自分にびっくり。

人におすすめする本ではないが、季節を感じるタイトルに惹かれました。

雨ではないけど、第四話、あるは冬の雨女探偵「雪女探偵」の雪女の考察は面白かった。

雪女と結婚した女房の関係性については実にミステリ的発想で、感心。

「Another エピソードS」

続編ありがとうございます、綾辻先生。

Another エピソード S (単行本)

Another エピソード S (単行本)

前作同様メイちゃんが麗しい表紙で人前で読むのが憚られる表紙です。
メイちゃん神秘的で綺麗なんだけどね。

上下巻で疑心暗鬼と恐怖のるつぼに叩き落とされましたが、本作は一巻完結。
さくっと読めます。
ただ前作読んでないとさっぱり分かりません。注意。

内容も幽霊が出てきたりでホラーといえばホラーですけど、だいぶミステリー寄りで全く怖くなーい。
ホラー目当てで読むと肩透かし食らいます。
むしろ表紙のとおり、メイちゃん可愛いーミステリアスー♪目当てで読むのが正解。

なかなか面白い幽霊視点から書くじゃないの面白いなーと読んでたら、ぐるっとひっくり返されて面白い!!てなりました。

前作の夜見山同様の現象に巻き込まれて逃げた被害者のそれから…という本作で、夜見山の哀しさが胸に染みます。

思い出せないのさ。いったい誰がその人だったのか、どうしても。

せっかく逃げられたのに、心の空洞に囚われていたかと思うと、哀しくなります。


あと巻末の榊原君(なんもしてない。今回は女の子の家にいるだけ)、深泥丘奇談ぽくて笑えます。

元のAnotherが2009年に発刊されて、続編となる本作が2013年。
後書きによれば一応続編の構想がないわけでもないらしいし……来年ぐらいに続編が読みたいですね?

「狐火の家」

狐火の家

狐火の家

貴志佑介といえばホラー!!
ISOLAも天使の囀ずりもむっちゃ怖かったわーと思い借りた………のに、全然ホラーじゃなかった。

密室殺人事件をめぐる短編集。

防犯アドバイザー(泥棒)の知恵を借りて、密室謎を解く普通のミステリーだった。

1話目の「狐火の家」が一番面白かったなぁ。
犯人が意図しない密室というのは良い切り口。
真相も物悲しい感じで好きな話でした。

あとは蜘蛛の話は完全にギャグ。
将棋は分かりやすい展開だった。
シリーズものなので、続けて読みたい。
ただ、こんな弁護士×防犯アドバイザーって、なんか月9であったような?
原作?