読書はしご

読書雑多文。

「雀蜂」

 

雀蜂 (角川ホラー文庫)

雀蜂 (角川ホラー文庫)

 

 「黒い家」、「ISOLA」等最高レベルのホラー・ミステリーを書き上げた貴志祐介でも、完成度の低い作品があるのだと弘法も筆の誤りを感じさせる本作だった。

 

 冬の雪で閉ざされた冬の山荘で、人気ミステリー作家が目を覚ます。

消えた妻の代わりに姿を現したのは、主人公にアナフィラキシーショックを引き起こす蜂。

以前に刺されたことがある主人公は、もう二度と刺されるわけにはいかないと身構え、恐れる。

しかし、外界への連絡手段を絶たれた主人公に残された道はただ一つ。

死神と化した蜂と闘うことだけだった。

蜂があまり怖くない、という考え方もあるかもしれないが、アナフィラキシーショックをもつ人間にとっては体質による理不尽な死神に等しいので、本当に恐ろしいのだと思う。

それを克服して、主人公が家にあるものを利用して、蜂に対抗していく様は実に心躍り、どう蜂を殲滅していくのか期待に胸が高鳴った。

また、主人公がなぜそんな状況に陥ってしまったのか。

妻と愛人による確かな殺意を感じながら、原因と今後を推察する主人公は、実にミステリー作家らしい。

 

が、最後に明かされた衝撃の事実に、開いた口が塞がらない。

これがあの貴志祐介の作品かと、表紙を見返したレベルで(以下、ネタバレ)。

まさかの主人公になりすました、いや、自分こそが主人公であると思いこんでいる熱狂的ストーカーだとは。

確かに冒頭にダブル(分身)の記述があったけど…。

既にミステリー作家は狂ったストーカーに刺殺されていて、この世にいないとは。

むしろ自分の危機を知ったミステリー作家が、狂信的な男に「これからはお前が俺だ」と唆して成り代わり、自分は男が乗ってきた車で逃亡を遂げて、最後に優雅にヴィンテージワインを傾けて、失敗した妻と愛人を「残念だったな」と嘲笑する流れのほうがよかったのでは。

 

冬に読むにはいい作品だけど、ラストの展開が残念すぎました。