読書はしご

読書雑多文。

「“文学少女”と月花を孕く水妖」

 

 前作に遠子がセンター受験間際だったのに、急に季節が夏で「は?え?どゆこと」と混乱しました。

文学少女シリーズにしては珍しく時系列が過去に戻ってたんですね。

図書館で借りているもので、すわ順番を借り間違えたか!いや、番外編か!とドキドキしました。

 

今回は近代文学でおそらく好きな人が多い泉鏡花

はー、これはこれは。

あの美しくも恐ろしい世界観・舞台設定を文学少女で楽しめるとは。

そして今回のメインターゲットは姫倉麻貴!!

あの麗しくも怖ろしいお嬢様の心の内が明らかに。

序盤から姫倉家への憎悪と怒りを飛ばしてますね。

 

以下、ネタバレ。

 

 

泉鏡花は大学生時代に夜叉ヶ池の演劇を見たことがあるもので、情感たっぷり、悲恋たっぷり。あぁもう大変好きです。

もちろん文学少女のほうも波瀾万丈、素晴らしい悲恋でした。

父から贈られる美しい本に書かれた「我が娘へ」という一言に胸を高鳴らさせていたのに、執事の手によるものだとは。

ずっと父の愛情を信じていたのに、と胸が詰まりますが、文学少女の「想像」により語られる「ゆり」の半生。

良かったねぇと胸を撫で下ろしそうになりますが、待て。

冷静に考えて、相当凄まじい。

死んでしまった恋人の復讐で屋敷の使用人ほぼ皆殺し。自分は死んだことに。

恋人の代わりに性別を偽り男としてドイツ留学。

なぜか後継ぎがバタバタ死んでいった姫倉家に我が子を当主に。

もしかして、ゆりさん姫倉家の人間悉く暗殺したんじゃないですか…?怖っ。

やっぱり、「愛する者を奪われ修羅に堕ちた女の、血みどろの復讐譚」があったのではないかと震えてしまいます。

あとずっと男のふりをしていた母を見ていたからか、「スカート履いてる女とは商談しない」っつー爺さん。相当なマザコンと推察しました。

しかし、爺さんが怒り腐って池の鯉に向かって餌を投げつけ、「白雪めぇぇぇ」と気炎を吐いてるの何で?

苛立っている理由をずっと考えているのですが、いま一つピンと来ません。

大変楽しそうな立身出世だった筈ですのに。

別荘周辺が開発できないのが、そんなにも苛立たしいものでしょうか?

孫娘に辛く当たるのも何故なんでしょう?

 

あと、紗代ちゃん。猟奇的かつ可愛すぎます。

中学生がメイド服って。犯罪というか、労働法的に中学生も働いてはいけなかったと思いますが、姫倉家なので問題ありません。

この伝統は守るんだ!的に猟奇的な紗代ちゃんが、文学少女の語るゆりと秋良の恋の結末に救われるシーンが感動的で、けっこうツボに入りました。

麻貴がくだらないと切り捨てた物語を、遠子先輩は白い手で優しく拾い上げ、儚く美しい物語として、語り直してみせたのだ。

あなたのお祖母さんと、あなたが守ってきた物語は、決してくだらなくも、馬鹿げてもいないと。

優しく、愛おしい――夢のような物語であったのだと。

魚谷さんの目に、きらきら光る水がたまってゆく。

 

あと、主人公と文学少女はいつもどおり。

今回学校が舞台じゃないので、琴吹さんがいないせいか、いっそう二人だけの世界になってまして、もう完全に付き合えばいいのに!状態です。

酔っぱらった遠子さんなんかもうエロいんですけど、さすが草食系心葉君、何も起こりません。

同じ部屋で普通に「先輩、邪魔です。寝相悪すぎます」って何夜も過ごしてるあたり、どうかと思うぐらい草食系。

あぁ「言えない…言っちゃダメ…心葉くんだから」と悩める文学少女が抱える謎が気になって仕方ないですね。

最後のエピローグ、今後の展開が伺える感じが…うーん、ないほうがいいと思うなぁ。

 

さて、最後に文学少女ならではのお言葉(275頁)

「鏡に映る花も、水に浮かぶ月も、目で見ることはできても、手にはとれないわ。どちらもつかもうとすれば儚く消えてしまう。でも、だからこそわたし達が忘れないかぎり、いつまでも美しいまま、心に留めておくことができるのよ。(略)

夢は覚めても、物語は残るの。

本を読んだあと、心の中に物語が消えずに残っていて、好きな場面を何度も取り出して、読み返すことができるように。

そうやって、自分を励まして、次の物語へ進むことができるわ。」

 職場の人に「よくそんなに本読むなぁ」と言われますが、まさに上のとおりです。

私の大事な心の一つが読書だと、改めて思いました。