「誤解だらけの日本美術 デジタル復元が解き明かす「わびさび」」
本書が学術的に正しいかは横に置いておいて、日本美術の鑑賞の仕方として、かくあるべき方向と感じました。
誤解だらけの日本美術 デジタル復元が解き明かす「わびさび」 (光文社新書)
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/09/16
- メディア: 新書
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筆者は、学者ではありません。
大学は美術専攻だったみたいですが、印刷会社に入社して、独立された方です。
なので、学術的な研究結果というほど確かな裏付けも弱いし、あくまでちょっと独自な解釈として本書を捉えるべきです。
正直に言って、文体とか全然好きじゃないです。
でも、学術的じゃないし嫌いだなーと思いながら、読み切ったのは、おそらく筆者の小林さんの主張は日本美術の今後の鑑賞の仕方としてあるべき方向のひとつだと思ったからだと思います。
①風神雷神図
屏風に限らず、大きい絵、小さい絵は鑑賞すべき適切な距離があるとは思います。
ただ、屏風の場合は距離だけでなく、空間が大事。
広げてみるか、屏風としてみるか。
理想は、和室の移ろいゆく光の中で、座して見ること。
ガラス越しの美術館だけでなく、お寺などではよく、仕切りがあって、部屋の外から見て下さいというのがあります。
そんな鑑賞方法で美術が分かるか!と悔しかったので、溜飲が下がる思いがしました。
近くで座って見させてください。
銀閣寺は書院造だけの激渋空間じゃなかった、という第二章。
全ては月を味わい尽くすために。
慈照って、月の光だったんですね。
全てを復元して満月の夜に是非公開してもらいたい。
あと10年ぐらいで、そういう風潮にならないものでしょうか。待ち遠しいです。
3倍ぐらい拝観料取って頂いても構わないんですけど。
誰かクラウドファンド…。
高松塚古墳好きとして、垂涎物の第三章。
確かにキトラ古墳はさらっと重大ニュースがちょくちょく新聞載ってたな、と思い出しました。
白い壁に浮かび上がる、四神と十二支たち。
高松塚よりおそらく後に作られた?キトラ古墳は、横たわると舞い上がるように星図が描かれる天井へ意識が浮かぶ。
想像するだけで、天に召されたくなりました。
少なくとも現代より、古代の人の死生観のがロマンティックだよなぁ。
古代の絵師の筆さばきが、つぶさに感じられたのも最高でした。
④阿修羅像
たぶん一番賛否が分かれそうな第四章は阿修羅像。
真っ赤に復元された阿修羅像が、どう見てもサーファーって、それ現代の価値観ですよ!
作られた経緯とその環境については初めて知ったので、勉強になりました。
阿修羅展て大都会以外で開催されたのかなぁ、行ってません。
当時の姿こそ本来の姿として、鑑賞しなおすか。
それとも、時の流れを経て、色褪せヒビだらけで憂える阿修羅こそ、日本的なわびさびの観点から至高と楽しむのか。
どっちが正解とかはないと思います。
当時の姿を思いつつ、色褪せた阿修羅を愛おしむのもまた良きかな。
こうだと言われたものを信じきらない。
美術なんてなにがいいのか、さっぱりわからない!って人にこそ、読んでほしい一冊です。
私は学者じゃないので、観て感じるのは自分、色々な立場や観点から眺めればいいと思います。