読書はしご

読書雑多文。

「消費低迷と日本経済」

 一部同意、一部もやもや。

データから導く流れはなかなかなのに、データ以外で断言される内容がところどころ怪しくて最終的にはお勧めできない出来上がり。

成熟社会となってる日本経済は黄金を求めて触るもの全てを黄金としてしまうミダス王に擬えるのは上手い。

 

消費低迷と日本経済 (朝日新書)

消費低迷と日本経済 (朝日新書)

 

 

 

リアルな消費・モノへの支出よりも、バーチャルな金を集めることばかりに苦心するばかりしているから、景気が良くならないってのは本当にそうなんだろうなと思います。

これは大金持ちの話だけではなく、庶民の生活にしてもそう。

人々が安さばかりを追い求めて、自分たちの暮らしの安定のためには、地域社会に根差した会社で財・サービスを消費したほうが、日本社会内で周る利益が多いのに、規模の論理で勝つ外資系ないし大株主が海外勢となる上場会社で消費することでその利益が海外へ逃げてしまう。

 

例えば、本・書籍だと日本に税金を納めていないAmazonで買うよりも、地元の本屋さんで買ったほうがその利益の乗数効果は断然後者のほうが高い。

食品だとイオン等の大手で買うよりも、地元スーパーで買ったほうが以下同文。

私たち一人一人が、節約というお題目の元、数十円、数百円を節約するために、割高だけど、適切に国や自治体に税金を納め、地元で人を雇い、まともな価格設定をする会社を忌避して、数と規模の論理で中小を圧倒する大手を選ぶ、それが現代の資本主義とグローバル経済です。

ひとり当たりでは数万円~数十万円の節約により、国全体で何十億・何百億という利益を損なっている。

安さを求めて、みんなで自分たちに利益をもたらさない企業を支持しているわけですね。

この形が果たして、私たちを幸せにしたのか。またしてくれるのか。

 

自然の世界で、野生動物は獲物を捕り過ぎたりすることはない、とよく聞きますね。

自然界のバランスが崩れると、獲物が減少することで結局自分たちが食べることができず調整が入るから、というのが真実でしょうが。

果たして人間の世界でこのバランス、神の見えざる手は機能しているでしょうか。

 

ところで、この資本主義は日本だけの話ではないですよね?

なぜ私たち日本社会だけがいつまでも景気が上がらず、金利が上がらず、景気浮揚が起きないのか。

それは第5章の「増税囚人のジレンマ」のとおり、私たちが負担を嫌がるからなのですが。

この経済低迷の原因とも言える増税に関する第5章が一番ページが割かれていないってどういうこと。

増税延期で失ったもの

消費税は本来なら2017年に4月に、8%から10%に引き上げられるはずだったが、景気への配慮などから、19年10月まで延期された。…(略)…4兆円を超える税収を放棄したため、景気を悪化させることなく解決できたはずの保育や介護問題がそのまま残ってしまった。このことを政府や我々も肝に銘じるべきだ。             (136,139頁より抜粋)

ここ、結構大事じゃないですか?

15年ぐらい前には無責任体制とか話題になって今では全然新聞でも全く見かけないけど、少子化対策とか新産業育成とか色々解決できずに先送りして、どんどんどん詰まりに陥っているのが日本の病気なのでは。

筆者は経済学者だから、増税を忌避する政治を分析するのは政治関連になるからできないのかな。

ここをもう少し、データで経済学的に分析すればいいのになぁ。惜しい。

 

新聞のコラムをまとめただけの本なので、そこまでは切りこめないのかな。

まぁ大学生1・2年向けの新書。