「グーグルマップの社会学 ググられる地図の正体」
グーグルマップについて社会学からアプローチ。
記載に制限がある紙ベースにはない自由さ、気軽さ、編集性の高さ。
特にスマホでのナビは旅行者の気苦労をひとつ減らしたのは間違いないでしょう。
今や欠かすことのできない旅道具。
そして、皆が使っているのは、おそらくグーグルマップではないでしょうか。
ただ、使っていて、不安になることもあります。
たとえば「東京駅 居酒屋」の検索結果。
この検索結果は本当に自分が欲しい情報が出てきているのか?
グーグルだって広告料を貰って、検索結果を表示しています。
それに、そもそもネットに出てないお店だって当然あるはず。
すぐ検索できて便利だから。
そうして失っているものも、あるような気がするのです。
また、フィルターバブルという問題もあります。
インターネットでいつの間にかセットになってしまった利用者個人個人に特化して表示を変えていく機能。
利便性とは逆に、自分の検索結果に左右されてしまいます。
ネットを検索していて、取り囲んで押し込めるフィルターバブルを感じることはありませんか?
一昔前と比べて、追いかけてくる広告のせいでネットサーフィンの楽しさが半減している気がします。
それが地図にも展開されていけば、自分で検索したつもりが、最悪用意されたものしか検索できていない状態が出来上がります。
自らのアンテナを高く張って、検索するキーワードを設定していけばいいでしょうが、そんなにいつも高い意識を持ち続けられるのか。
一方で東日本大震災前の状態がストリートビューで見られるという新しい取り組みもあり、地図利用の可能性の広がりを感じます。
社会学的アプローチは新しく、読み応えがありました。
ただ、もう少し筆者なりの学術的考察がほしいのが正直な感想。
今後に期待。
「日々コウジ中 高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック」
ある日、働き盛りのご主人が、くも膜下出血で日々の生活も大変な高次脳機能障害に。
母が高次脳機能障害の本を探して、図書館で借りてきた一冊。
私の母は認知機能はあまり低下していないので、「私の症状と違うから参考にならないよ」と言われました。
しかし「周りには普通に見えるのに普通じゃない」状態でサポートをしないといけない家族の孤独や苦しさが、私には大変参考になりました。
症状は違っても、サポートされる家族に読んでほしい一冊です。
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「万能鑑定士Qの事件簿Ⅹ」
シリーズ10作目にして、シリーズ1作目前後に巻き戻ります。
巻き戻るだけでなく、気になる人物がいたということも分かったりとか、うまい。
ただ、個人的にこういう調整回があまり好きじゃないんですよね。
「文学少女」シリーズの「”文学少女”と月花を孕く水妖」のように唐突に挿入される過去話、今まで言及されていなかったエピソードや最終作への伏線。
シリーズ最後まで読んでないのですが、脈絡のない過去話であるため、いまいち盛り上がれませんでした。
唯一盛り上がったのは、美容師・笹宮朋季の存在です。
せっかく前回が小笠原回だったのに。
過去に、莉子にちょっと気になる人がいたという展開。
これはまさか三角関係への布石?胸が高鳴ります。
この美容師の彼が引き続き出てくるかどうかで本作の存在意義が異なってくるでしょう。
早く続きを読まねばなりませんね。
「万能鑑定士Qの事件簿Ⅸ」
「十五夜物語」
十五夜というキーワードから千夜一夜物語を想起して借りたわけですが、全然違いました。
妖しく艶かしい夢枕ワールド前回の大人向け絵本。
夢見小僧に
幻食坊。
遠く眺むる地平線。
流るる雲は行方を知らず。
想ひは白き鳥のやう。
想ひは白き鳥のよう。
夢枕獏、実は小説で読んだことはないんですよね。
昔、兄が持っていた漫画の陰陽師を何冊か拝見したぐらいです。
この本をきっかけにwiki見たわけですが、冒険家のようにヒマラヤやら雲南やらに突撃されていてアウトドアな一面に驚きました。
全十五夜、どれも幻想的で迫力ありすぎて、読みながら夢を見てる心地になります。
縦になったり横になったり、ひっくり返ったり、文字が躍り背景になり、見ていて楽しかったです。
世界の果てを、空と大地の境界にあるという宝を求めて、ひたすら旅する夢見小僧。
浪漫だなぁ。
本作は、なんとベネズエラのテーブルマウンテンを旅する中で、作家・夢枕獏氏とイラストレータ・寺田克也氏が交換日記のようにして生まれたものです。
ある晩に夢枕氏が文章を書き、翌晩に寺田氏が文章から想起した絵が描かれる。
それぞれがどういう経緯で本を作ることになったか、あとがきがあるのですが、これがまた面白い。
旅の勢いが感じる文章とイラストを見ていると、世界を旅した夢見小僧と幻食坊に続きたくなります。
ざんざかざん!
「こんなところにいたの? じっくり探すと見えてくる 動物たちのカモフラージュ」
動物・昆虫たちの擬態をこれでもか!というほど堪能できる自然科学スキーにはたまらない一冊。
こんなところにいたの?: じっくり探すと見えてくる 動物たちのカモフラージュ
- 作者: 林良博,ネイチャー&サイエンス
- 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
- 発売日: 2016/07/01
- メディア: 単行本
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まず一枚の写真をみて、一体どこに擬態しているかを探し出す。
裏に解説。なぜこんな擬態をしているのか。
捕獲者から逃げるためか。はたまた捕食者に気付かれずに近づくためか。
すぐわかるものもあれば、つぶさに写真を見ても全然分からない超絶擬態もいて、薄さの割にたっぷり楽しめました。
裏の解説でここですよ、と囲まれているのですが、それでようやく分かると「そこかよ!」ってつい声でちゃいます。
電車の中はおススメできません。幾度となく声を上げそうになりました。
軽い読み物ですが、国立博物館館長監修で解説は大変しっかりしています。
「駅伝日本一、世羅高校に学ぶ 「脱管理」のチームづくり」
その強さが知りたくて読み始めましたが、高校駅伝に留まらぬ内容に胸が熱くなりました。
駅伝日本一、世羅高校に学ぶ 「脱管理」のチームづくり (光文社新書)
- 作者: 岩本真弥
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2016/12/15
- メディア: 新書
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世羅高校を長年支える岩本監督本人による著。
ご本人も、そして青学の原監督も、世羅高校出身とは知りませんでした。
1学年違いで、一緒に走っていたお二人が、いま日本の駅伝を活性化させる監督として成果をあげられているのは凄いと思います。
また、二人ともが兎にも角にもスパルタな(当時はどこもそうだったと言ってますが)自身の高校生時代を猛省して違う指導法を追い求めた結果、似たようなチーム作りをされているのが印象的です。
タイトルで「脱管理」と銘打ってますが、これはミスリード。
生活指導は徹底しても、言いすぎない。手綱を引き締めた管理かと。
また実際に指導を受けた選手のエピソードを見ると、自分のためじゃなくて監督のために成果を残したかったという感じのことを発言しているのが印象的。
私も営業職として「自分の成績だけ達成すればいい!」と思っているときよりも、「この店のために!みんなで頑張ろう!」と思っているときのほうが自分と店全体のノルマの達成率が上がっているのを実感しているので、合点がいきます。
全体を見渡したほうが冷静になれるというか、皆で達成するために自然とチーム力が高まるように挨拶とか声掛けが活性するというか。
そういう雰囲気が全体で熟成すると、「みんなで楽しんでいこう」な感じに自然となるんですよね。
だから、岩本監督が「女子に対してはあまり何もしていない」と言ってますが、いがみ合いやすい思春期女子を「ハッピーになりたい」と自分たちで勝手に暴走して入賞ふっ飛ばして優勝しちゃうチームになる基礎を作り上げたのが監督の力量だと思います。
嫌な上司の時には部下としても「まだできる…ただ、この上司の手柄になるのは悔しい」と適当なところでブレーキを踏みますし、良い上司の時には「ここまで上司が頑張ってくれてるのならば、部下としても成績として報わねば。アクセル全開」と思いますもの。
また、駅伝だけでなく、地域活性や日本マラソン界まで語られています。
世羅高校自体の歴史が結構面白くて、なぜ「駅伝の町」となったのか。
そして、現在は駅伝をし続けられる町として、選手を巻き込んで地域づくりの核として活用されているのが凄い。
私は隣県の岡山ですが、世羅のような中山間地域がいかに辛い状況かは都会の人より肉薄して感じられます。
特に中国地方の、都会(関西圏)が近くにない中山間地域は観光で名をあげるといっても、都会の人を誘致し辛い分ハンディキャップはものすごいのです。
気軽に都会から行ける距離じゃないし、交通機関もほぼないですからね。
これは難題だ…でもずっと駅伝を応援してきた世羅地域ならできるかもしれない。
また、最近低迷著しい日本マラソン界にも、「マラソンはずっと記録更新されていない。短距離はできた、長距離はどうだ」と苦言を呈されています。
日本陸連が変わらないといけない、と言われていますが、ここを変えるために岩本監督や原監督が新しい風を送り込んでる最中なのですね。
一駅伝ファン、マラソンファンとして、注目していきたいです。
最期に世羅高校は留学生の子も走っているので、ずっと私学だと思っていました。
県立高校だったのですね。
また岩本監督も監督業ではなく、学校の先生。
駅伝の成績だけでなく、生徒のことを考えて指導される姿はまさに教育者。
これからも世羅高校の走りを見守っていきたいと思います。